<秋の配達人>
 人の声が秋を教えず
 虫の声が秋を知らせた

 人の動きが夏をひきずり
 虫の仕草が夏を払った

 人が暑いと言うたびに
 虫が涼しいと答える

 人が残暑を喘(あえ)ぐ時
 虫が初秋を喚(わめ)いた

 人より先に虫が季節を告げてから
 虫より後に人が季節を受け入れる

 人より上手な虫の歌
 虫より下手な人の声

 不器用な人の感性を
 感じるままに虫がくすぐる

 人は知らずに教えられる
 虫は知らずに答えている

 人が待ちわびた秋の姿を
 虫がけんめいに運んでいる

 結局人は何も知らないまま
 結局虫は何も語らずに
 秋をそこまで運んでいた